2012年1月31日火曜日

余因子行列とケイリー・ハミルトンの定理

 

大学への数学Ⅲ&Cの勉強
行列と連立1次方程式

(単位行列について)
単位行列Empは、
m≠pのとき、Emp=0,
m=pのとき、Emm=1である。

(0行列について)
0行列0mpは、
mとpがどの場合も、0mp=0

【余因子行列】
 余因子行列は、逆行列を導く基礎の行列で重要な行列ですが、高校生には教えられていません。高校生向けの一部の参考書に「余因子行列」の名前が登場するのみです。
 余因子行列の持つ数学的意味は大きく、そのため、余因子行列の全てを学ぶには、かなりの時間を必要とします。教育時間にゆとりを持てない「ゆとり教育」の下では、それを教えるゆとりが無いようです。
 そのため、高校生に余因子行列を教えるのはタブーになっているようなので、高校生の間は、以下の余因子行列の性質を知っても、その知識を隠して生活して下さい。自分自身が行列の性質を理解する助けにするためだけに用いるようにしてください。

(1)2行2列の行列の余因子行列
2行2列の行列Ampに対する行列式Δは、
エディントンの行列式の計算記号εmpを使って、アインシュタインの縮約記法であらわして、
Δ=εmpm1p2
で計算しましたが、
その行列Ampに対する余因子行列Bstは、
その積の要素の1つを空欄にした以下の式で定義します。
1m=εmpp2  ・・・行列式ΔのAm1を空欄にした。
2p=εmpm1  ・・・行列式ΔのAp2を空欄にした。
この計算に利用する行列
εmp
は、m≠pの場合では、
ε12=1,
ε21=-1
であり、
それ以外の、
m=pとなるεmpは、
ε11=ε22=0
です。
ここで、
余因子行列B=(余因子の行列Q)
Qの左上の添え字tは「転置行列」=行と列を入れ替えた行列、をあらわす記号です。
stst=Qts
1m1m 
=Qm1=εmpp2  ・・・行列式ΔのAm1を空欄にした。
2p2p 
=Qp2=εmpm1  ・・・行列式ΔのAp2を空欄にした。
余因子の行列Qのm行目1列目の要素(余因子)のQm1は、行列式Δを計算する式のAm1を空欄にした形のεmpp2という式で定義されます。
このQm1は、Am1を含む行列式Δと、行列εmpによって以下のように関係付けられています。
つまり、行列εmpは、行列式Δの計算において、Am1が掛かって成る項Am1p2に関して、それに1を掛け算して加え合わせるか、(-1)を掛け算することで引き算するか、あるいは、それに0を掛け算することでその項は無くすか、の計算の制御を行なっています。
m1は、その計算の制御を行なう行列εmpを持っているので、
m1にも、そのAm1に関するAm1p2の項に対応して、行列式Δと同じ計算の制御によってAp2の項が加えられます。

ちなみに、行列式Δは、Δ=εmpm1p2
で計算するので、
Δ=(εmpm1)Ap2=Qp2p2
が成り立ち、かつ、
Δ=(εmpp2)Am1=Qm1m1
が成り立ちます。
 この式が意味することは、
(a)行列式Δを構成するどの項も、いずれかのp(p=1又は2)のAp2が掛かっています。
(b)行列式Δを構成するどの項も、いずれかのm(m=1又は2)のAm1が掛かっています。
(c)そして、 
k1=εkp1・Ap2+εmpm1・Ap2
ですので、
k1は、Ak1を1にし、m≠kであるAm1を0にして、Ak1が掛かる項のみを計算した行列式でもあります。
 そのため、余因子の行列Qtsは、行列式Δを構成する多数の項から、Atsに掛かる係数を集めて(2行2列の行列の場合は係数は1つしかありませんが)それを要素Qtsとした行列です。
 つまり、
行列式はΔ=εmpm1p2≡Σmpmpm1p2)
=ε121122+ε212112
=A1122-A2112です。
この行列式の計算式では、アインシュタインの縮約記法によって、εmpのmは、あらゆる値のm(及びあらゆる値のp)で式の和をとります。
一方、余因子の式のQm1=εmpp2のεmpのmは、Qm1のmに対応する1つのmに限定されていて、
εmpのpのみがあらゆる値の場合について式の和をとります。
例えば、余因子の1つのQ11=ε1pp2≡Σ1pp2
=(ε1112+ε1222)=A22です。
この値A22は、行列式の和を構成する項のうち、A11が掛かった項、すなわち、項A1122のA11に掛かる値です。
他のQtsも、同様に、行列式Δの和を構成する項のうち、Atsが掛かった項における、Atsに掛かる値です。

この余因子の行列Qにおける列ベクトルQt1=εtpp2は、列ベクトルAp2に垂直なベクトルです。

余因子の行列の要素Qt1は、行列Aの行列式のうち、At1に掛かる係数です。 
そして、この余因子の行列Qには、その列ベクトルと、行列Aの列ベクトルの内積を計算すると、
行の番号同士が一致すれば、内積の結果がΔになり、行の番号が一致しなければ、内積が0になるという大切な性質があります。
t1・Qt1=At1・εtpp2=εtpt1p2=Δ
t2・Qt1=At2・εtpp2=εtpt2p2=0
t1・Qt2=At1・εptp1=εptp1t1=0
t2・Qt2=At2・εptp1=εptp1t2=Δ
 この各ベクトル同士の内積の結果を行列の形にまとめると、
すなわち、行列Aのm列目の列ベクトルと、行列Qのp列目の列ベクトルとの内積の結果を、m行p列の行列にまとめてあらわすと、以下の式になる。
tm・Qtp=Δ・Emp 
この関係がある理由は、
t1は、行列Aの行列式の各項から、At1に掛かる係数を抽出した結果だからです。
その各係数Qt1に各At1を掛け合わせて、全てのtの場合についての和を取れば行列式の値そのものを計算する式に戻ります。
 また、At1に掛かる係数Qt1にAt2を掛け合わせれば、それは、行列式の計算において、At1の列ベクトルの位置にAt2の列ベクトルを置いて行列式を計算することに等しくなります。
行列式の計算では、2つの列ベクトルが等しければ、その行列式は0になります。
そのため、At1に掛かる係数Qt1にAt2を掛け合わせるということを行なうと、t2の列ベクトルが2行ある行列の行列式を計算することに等しくなり、その計算結果は、
t2・Qt1=0
になります。
(このため、余因子の行列の列ベクトルQt1は、元の行列の余りのベクトルAt2に垂直なベクトルです)


このように作られた列ベクトルで構成される行列tsを、行列の掛け算の計算規則の中で便利に使えるように、その行と列を入れ替えて定義したのが余因子行列stです。
行列の掛け算の計算規則では、ベクトルの内積は行ベクトルと列ベクトルの積であらわされるから列を行と入れ替えたのです。

余因子行列Bstは、余因子の行列tsの行と列を入れ替えた行列で、
11=A22
12=-A12
21=-A21
22=A11
です。

こうして計算した余因子行列Bstを行列Ampに掛け算すると、
行列Ampの行列式=Δとすると、
1mm1=εmpm1p2=Δ
1mm2=εmpm2p2=0
上の計算は2つの列ベクトルが同じ行列の行列式を計算することになるので、値が0になる。
2pp1=εmpm1p1=0
2pp2=εmpm1p2=Δ

sttp=Δ・Esp
このEspは、単位行列。

(2)3行3列の行列の余因子行列
3行3列の行列Ampに対する行列式Δは、
エディントンの行列式の計算記号εmpsを使って、アインシュタインの縮約記法であらわして、
Δ=εmpsm1p2s3
で計算しましたが、
その行列Ampに対する余因子行列Bstは、
その積の要素の1つを空欄にした以下の式で定義します。
1m=εmpsp2s3  ・・・行列式ΔのAm1を空欄にした。
2p=εmpsm1s3  ・・・行列式ΔのAp2を空欄にした。
3s=εmpsm1p2  ・・・行列式ΔのAs3を空欄にした。
この計算に利用する行列(正しくはテンソルと言う)
εmpr
は、
ε123=ε231=ε312=1
ε213=ε321=ε132=-1
であり、それ以外の
εmpr=0
です。

こうして計算した余因子行列Bstを行列Ampに掛け算すると、
3行3列の行列Ampの行列式=Δとすると、
1mm1=εmpsm1p2s3=Δ
1mm2=εmpsm2p2s3=0
・・・
結局、
smmp=Δ・Esp
このEspは、単位行列。

(3)
このように、余因子行列Bsmは、行列Ampと掛け算することで、Δ・Esp
となる行列です。
smmp=Δ・sp

【余因子行列の可換性】
また、余因子行列Bsmは、
pssm=Δ・Epm
となる行列でもあります。
(証明開始)
余因子の行列Qmsにおいて、行列Atsのs列目の列ベクトルと行列Qmsのp列目の列ベクトルとの内積について、
ts・Qtp=Δ・Esp
が成り立ちましたが、それは行列式の計算に帰着したためでした。
 一方、行列式は、行と列を入れ替えても同じ結果になりますので、
行ベクトル同士の内積も行列式の計算に帰着し、
行列Aのm行目の行ベクトルAmtと行列Qのp行目の行ベクトルQptとの内積について、以下の式が成り立ちます。
mt・Qpt=Δ・Emp
 この関係によって、以下の式が成り立ちます。
mttp=Δ・Emp
 (証明おわり)
 なお、上の式は、「行列Aの行列式Δが0の場合は、行列Aは、余因子行列Bの各列ベクトルを0ベクトルに変換する」ということも表している。その場合は、その行列Aを行基本変形して作った行列も、同じ列ベクトルを0ベクトルに変換する。
しかし、行列Aが、
1,1,1
0,0,0
0,0,0
のような行列の場合、
その余因子行列Bは、全ての成分が0である0行列になる。
その行列Aは、縦ベクトル(1,-1,0)や縦ベクトル(1,0,ー1)を0ベクトルに変換する。
しかし、その縦ベクトルを余因子行列Bの各列ベクトル(0ベクトル)の合成によって作ることができない。そのように、行列Aによって0ベクトルに変換される縦ベクトルのうち、余因子行列Bの縦ベクトルから作れないベクトルもあるので注意すること。


【余因子行列の注意点】
余因子行列は、大学生も間違え易い、以下の問題点がありますので、ここで注意点を指摘しておきます。
余因子行列B=(余因子の行列Q)
Qの左上の添え字tは「転置行列」=行と列を入れ替えた行列、をあらわす記号です。
stst=Qts
1m=Qm1=εmpsp2s3
2p=Qp2=εmpsm1s3
3s=Qs3=εmpsm1p2

余因子tsは、もとの行列式よりも1つ次元の低い行列式で計算されています

【3次元ベクトルの外積】
この余因子の行列Qにおける列ベクトルQm1=εmpsp2s3は、列ベクトルAp2と列ベクトルAs3との張る平面に垂直なベクトルです。この列ベクトルQm1は、列ベクトルAp2と列ベクトルAs3との外積と呼ばれています。そしてその2つのベクトルが作る平行四辺形の面積の値の長さを持ちます。
(ベクトルの外積の応用:三角錐の底面を構成する2つのベクトルの外積をベクトルQとします。そのベクトルQの長さを1にした単位ベクトルと三角錐の頂点の位置のベクトルGとの内積は、その三角錐の頂点の底面に対する高さです)

 そして、この余因子の行列Qには、その列ベクトルと、行列Aの列ベクトルの内積を計算すると、
行の番号同士が一致すれば、内積の結果がΔになり、行の番号が一致しなければ、内積が0になるという大切な性質があります。
t1・Qt1=At1・εtpsp2s3=εtpst1p2s3=Δ
t2・Qt1=At2・εtpsp2s3=εtpst2p2s3=0
t3・Qt1=At3・εtpsp2s3=εtpst3p2s3=0

すなわち、この各ベクトル同士の内積の結果を行列の形にまとめると、
tp・Qtm=ΔEpm
という関係があります。

行ベクトル同士の内積でも同じ関係があります。
pt・Qmt=ΔEpm


(At1・Qt1=Δという関係がある理由)
t1は、行列Aの行列式の各項から、At1に掛かる係数を集めて、その係数の和を求めた結果だからです。
その各係数Qt1毎に各At1を掛け合わせて、全てのtの場合についての和を取れば行列式の値そのものを計算する式に戻ります。

(At2・Qt1=0という関係がある理由)
 また、At1に掛かる係数Qt1にAt2を掛け合わせれば、それは、行列式の計算において、At1の列ベクトルの位置にAt2の列ベクトルを置いて行列式を計算することに等しくなります。
 行列式の計算では、2つの列ベクトルが等しければ、その行列式は0になります。
そのため、At1に掛かる係数Qt1にAt2を掛け合わせるということを行なうと、t2の列ベクトルが2行ある行列の行列式を計算することに等しくなり、その計算結果は、
t2・Qt1=0
になります。

(余因子行列stが余因子の行列tsの行と列を入れ替えた理由)
 このように作られた列ベクトルで構成される行列tsを、行列の掛け算の計算規則の中で便利に使えるように、その行と列を入れ替えて定義したのが余因子行列stです。
行列の掛け算の計算規則では、ベクトルの内積は行ベクトルと列ベクトルの積であらわされるから列を行と入れ替えたのです。


【2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理の証明】
2行2列の行列Ampの余因子行列Bstは、
11=A22
12=-A12
21=-A21
22=A11
でしたので、
mp+Bmp=(A11+A22)Emp
(要注意)この関係が成り立つのは2行2列の行列の場合だけに限ります。

両辺にAptを(右から)掛け算すると、
mppt+Bmppt=(A11+A22)Emppt
mppt+Δ・Emt=(A11+A22)Amt
 これは、2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。
この証明過程を覚えるとケイリー・ハミルトンの定理が覚え易くなると思います。


【ケイリー・ハミルトンの定理の(正規な)証明】
上記の証明は、偶然に証明ができたような証明であって、確実な礎がある解答ではなかった。そのため、以下では、問題の本質に正面から迫る方法でケイリー・ハミルトンの定理を証明する。

先ず、ケイリー・ハミルトンの定理は、行列式
Δ=det[Apt-xEpt]=0
の方程式のxを行列Aptに置き換え、係数項を単位行列Eptの係数倍に置き換えた式が成り立つという定理です。
この、「置き換え」がされる必然性が証明されなければ、ケイリー・ハミルトンの定理を証明したことにはならないと考える。

上の行列式の方程式は、
Δ=(A11-x) (A22-x)-A2112=0
ケイリー・ハミルトンの定理は、
(A11pt-Apt)(A22ts-Ats)-A2112ps=0・Eps
です。


これを証明するために、行列(Apt-xEpt)の余因子行列Bptを考える。この場合に、以下の式1が成り立つ。

 (Apt-xEpttsΔps   (式1)
この余因子行列Bptは、その要素である余因子が元の行列の要素の1次式により計算される。そのため、余因子行列は、変数xが高々1次である、xの多項式で展開した行列の和であらわせる。
すなわち、式2のようにxの1次の多項式で展開した行列の和であらわせる。
ts= xPts+Rts   (式2)
この余因子行列tsの式2を式1に代入する。
(Apt-xEpt)(xPts+Rts)=Δps  (式3)
ここで、Δは、
Δ=(A11-x)(A22-x)-A2112 
=x(A11+A22)x+(A1122-A2112) (式4)
この式4を式3に代入した下式がxの恒等式になる条件を求める。
(Apt-xEpt)(xPts+Rts)=(x-(A11+A22)x+(A1122-A2112))Eps
上式の左右の辺で、xの2乗の項と1乗の項と係数項とが、各々等しい条件を求める。
(xの2乗の項) -Ppsps  (式5)
(xの1乗の項) psptts=-(A11+A22ps (式6)
(係数項)  ptts(A1122-A2112ps  (式7)
A×{(A×式5)+式6}+式7を計算する。
すると、その式の左辺は0行列になり、
右辺は、行列式Δ
(1)xの2乗の項の係数にAの2乗を掛け算し、 
(2)xの1乗の項の係数にAを掛け算し、
(3)係数項は単位行列を掛けて、
それらの行列の項の和になります。
すなわち、
Δ=det[Apt-xEpt]=0
の方程式のxを行列Aptに置き換え、係数項を単位行列Eptの係数倍に置き換えた形の式になり、その式は、ptts-(A11+A22)Aps+(A1122-A2112)Eps=0ps
になります。
(証明おわり)

このケイリー・ハミルトンの定理は、回転行列Apt場合には以下の式になります。
 
【n行n列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理の証明のページへリンク】




リンク:
南海先生による、n行n列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理の証明
追加講:三角形の面積と行列式
高校数学の目次

2012年1月28日土曜日

ケイリー・ハミルトンの定理の数学的意味



大学への数学Ⅲ&Cの勉強
行列と連立1次方程式

ケイリー・ハミルトンの定理は高校の数ⅢCで教えられています。
しかし、高校生には、この定理の数学的意味が教えられていないので、
なぜこの定理を学ばなければならないのかが高校生にわからない状態です。

行列の教育の評判が悪いためか、2012年の高校入学生からは、新教育過程で、行列自体を高校生に教えないことになりました。

このページでは、このケイリー・ハミルトンの定理の数学的意味、すなわち、この定理を学ぶ価値がわかるように、以下で、この定理の意味を解説します。

以下の話は大学で教わる知識です。
そのため、以下の知識は高校の試験問題での解答には使わないで下さい。
(大学の入試問題の解答には使っても良いかもしれない)
高校の試験問題では、高校で習う範囲の知識を使って解答するようにして下さい。

先ず、ケイリー・ハミルトンの定理は、高校の数学ⅢCで教えられているような2行2列の行列に限定された定理では無く、n行n列の正方行列に関する広い範囲の定理です。
 すなわち、ケイリー・ハミルトンの定理は、n行n列の行列Aptに関して、
Δ=det[Apt-xEpt]=0
の方程式のxを行列Aptに置き換え、係数項を単位行列Eptの係数倍に置き換えた式が成り立つという定理です。

【行列式】
ケイリー・ハミルトンの定理の意味を理解するには、先ず、「行列式」の意味を知る必要があります。

【行列の固有値と固有ベクトル】
 行列Amp毎に、その行列の変換により方向が変わらないベクトル(固有ベクトル)が必ず1つ以上あり、固有ベクトルの方向毎に特定の倍率α(固有値)でベクトルが拡大されます。
つまり、ある方向のベクトルに関して、
mp=αB   (式1)

という関係があります。
この固有ベクトルの方向は固有値毎に定まります。
固有値が異なる固有ベクトルは異なる方向を向きます。

この固有値αを計算するには、以下のようにします。
 mp-αB=0
 (Amp-α・Emp=0  (式2)
mpは単位行列です。
この行列 (Amp-α・Empの行列式が0になります。
また、その行列式が0ならば、以下で詳しく説明するように、式2を満たすベクトルが 存在します。
そのため、
mp-x・Emp
という行列の行列式を0にする方程式を求めます。その行列式の方程式の変数xの値(固有値)を求めることで行列Ampの固有値が計算できます。
Δ=det[Amp-xEmp]=0   (式3)

固有値αが求められたら、行列
mp-α・Emp
の余因子行列を計算します。
以下で詳しく説明するように、その余因子行列の縦の列ベクトルが固有ベクトルに比例します。(ただし、(3行3列以上の行列で起こり得ることであるが)余因子行列が0行列になってしまう場合は、その他の方法で固有ベクトルを求める必要があります)。

(注意)
 一見固有ベクトルを持たないように見える回転変換の行列も、複素数の固有値を持ち、複素数の成分が含まれる固有ベクトルを持ちます
 
【固有ベクトルの有用性について書いたページはここをクリック】

【行列の固有値と固有ベクトルの計算の詳細】

 行列mpに関する固有値は、以下の行列の行列式を計算することで計算します。
mp-x・Emp
この行列が2行2列の行列の場合は、その行列式Δを0にする方程式(式3)は、以下のようにxの2次方程式になります。
Δ=det[Amp-xEmp]=0  (式3’)
0=εmp(Am1-xEm1)(Ap2-xEp2
=(A11-x)(A22-x)-A2112 ,
-(A11+A22)x+A1122-A2112=0  (式4)
このxの2次方程式の解は2つあります。
その2つの解をαとβとします。
(このαとβが固有値です。)
根と係数の関係から、
α+β=A11+A22     (式5)
α・β=A1122-A2112 (式6)
が成り立ちます。
(式6は、行列Aの固有値の積が行列Aの行列式に等しいことを表している)


この固有値λ(=α又はβ)を使った行列 (Amp-λ・Emp)の行列式Δは0です。
この行列 (Amp-λ・Emp)の余因子行列をpsとします。
すると、
(Amp-λ・Empps=Δ・Ems=0・Ems=0ms  (式7)
が成り立ちます。
行列psの1つの縦の列ベクトルp1については、
(Amp-λ・Empp1m1  (式8)
が成り立ちます。
この式8を変形すると、
mpp1-λ・Empp1m1
mpp1-λ・m1m1
mpp1=λ・m1
すなわち、列ベクトルBp1は固有ベクトルです。
よって、行列 (Amp-λ・Emp)の余因子行列psの列ベクトルp1は固有ベクトルです。
同様にして、 余因子行列psの列ベクトルp2も同じ固有ベクトルです。これは、p1p2が比例することを意味します。
 
この固有ベクトルは、個々の固有値毎に、その固有値に関する余因子行列を計算し、その余因子行列の縦ベクトルに比例する固有ベクトルを求めます。(ただし、余因子行列Bが0行列になる場合は、その他の方法で固有ベクトルを求めて使います)
そうして求めた個々の固有値毎の固有ベクトルは、
固有値が異なれば異なる方向を向きます。
固有値が全て異なる場合の、固有値毎の固有ベクトルを列ベクトルにして並べて作った行列Pの行列式は0ではありません。

 【2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理】

 (2つのxの値が異なる場合、すなわちα≠βの場合)
 固有値毎に、
(1)
1つ目の固有値αに対応した固有ベクトルBに対して、
(ベクトルBは、(B, B)です。)

行列Ampによる変換結果は、
mp=αB
になります。

(2)
別の固有値βに対応した固有ベクトルCに対して、
行列Ampによる変換結果は、
mp=βC
になります。

そのため、
行列(Amp-α・Emp)に対して
(Amp-α・Emp)B=0
(Amp-α・Emp)C=(β-α)C
行列(Amp-β・Emp)に対して
(Amp-β・Emp)C=0
(Amp-β・Emp)B=(α-β)B
一方、任意のベクトルDは、
=b・B+c・C
とあらわせる。
すると、任意のベクトルDに対して、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)D
=(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)(b・B+c・C
=(Anm-β・Enm)c・(β-α)C
=0
この行列(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)は、任意のベクトルDを0ベクトルに変換するので、0行列です。すなわち、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
(この形の式は、式(4)(5)(6)の変数xを行列Aに置き換えたケイリー・ハミルトンの定理の式を因数分解した式です。)

(重根の場合、すなわち、α=βとなる場合)
固有ベクトルBに対して、
(Amp-α・Emp)B=0  (式9)
になりますが、
行列(Amp-α・Emp)は、
任意のベクトルFを、以下のように、ベクトルBの定数倍に変換します。
(証明開始) 
行列(Amp-α・Emp)によるベクトルFの変換結果のベクトルは、以下の式10であらわせる。すなわち、
(1)ベクトルベクトルBと線形独立な場合は、ベクトルベクトルBを用いて、 
(Amp-α・Emp)F=g+hB  (式10)
とあらわせる。
(2)また、ベクトルがベクトルBと線形独立で無くベクトルBの定数倍の場合は、g=0、h=0とあらわせて、やはり式10であらわせる。

(仮定)ここで、g≠0と仮定すると、

式9により、
(Amp-α・Emp(h/g)B  (式11) 
式10と式11を足し合わせると、
(Amp-α・Emp)(F(h/g)B)=g+hB ,
mp(F(h/g)B)=(α+g)・(F(h/g)B
この式は、ベクトル(F(h/g)B)が行列mpにより(α+g)倍に変換されることをあらわしているので、
α+gが固有値であることになる。
一方、固有値は重根であって、αのみであるので、
g=0
になる。
しかし、g≠0と仮定していたので、これと矛盾する。
よって、g≠0とする仮定は不適。
∴ g=0
任意のベクトルFに関する式10は、
(Amp-α・Emp)FhB
(証明おわり)
このため、任意のベクトルFについて、
(Anm-α・Enm)(Amp-α・Emp)F=(Anm-α・Enm)(h・B
=0
すなわち、
(Anmα・Enm)(Amp-α・Emp)=0np

よって、α≠βの場合も、α=βの場合も、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
nmmp-(α+β)Anp+α・βEnp=0np
根αとβと係数の関係をあらわす式5と式6を代入すると、
nmmp-(A11+A22)Anp+(A1122-A2112)Enp=0np
 これが、2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。

【3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理】
2行2列の行列の場合と同様に、3行3列の行列についても、
変数xに関して以下の行列を作ります。
mp-x・Emp
そして、この行列の行列式を0にする変数xの値を求めます。
εmpr(Am1-xEm1)(Ap2-xEp2)(Ar3-xEr3)=0 (式12)
 
この方程式は3次方程式になります。その3つの解をαとβとγとすると、以下の式であらわせます。
(α-x)(β-x)(γ-x)=0   (式13)

《なお、この式から、
αβγ=(Aの行列式),
という関係があることがわかります。

更に、
α+β+γ=(行列Aの対角成分の和),
という関係があることもわかります。


一方、行列Ampに関しては、2行2列の行列と同様に、以下の関係が成り立ちます。
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
この式13を展開した式を求めるには、行列式12を展開した3次方程式を求めて、
その3次方程式の、
をAnmmsspに置き換え、
をAnmmpに置き換え、
xをAnpに置き換え、
係数項は単位行列npの係数倍に置き換える
ことで求めることができます。
これが3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。

《ケイリー・ハミルトンの定理の応用》
3行3列の行列のケイリー・ハミルトンの定理:
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
が成り立つので、
(Anm-γ・Enm)の行列が、
2つの行列の積(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)で得た行列の列ベクトルBを0ベクトルに変換する。
そのため、その2つの行列を掛け合わせて得た行列の列ベクトルBは、固有値γの固有ベクトルである。

そのため、この行列(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)の計算によっても、固有値γの固有ベクトルが計算できる。(これによって固有ベクトルを求める方法は、固有ベクトル用の行列の余因子行列が0行列になって固有ベクトルが求められないときに有用な方法である)

《応用例1》
1, 1,1
-1,1,0
1, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(1-λ)3=0,
その結果、λ=1という、3重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、
0, 1,1
-1,0,0
1, 0,0
の行列を3回掛け合わせると0行列になるケイリー・ハミルトンの定理の式が得られる。
そして具体的に計算するとその通りになり、3回掛け合わせて初めて0行列になる。
また、この行列を2回掛け合わせて得た行列を下図に示す。

その積の結果の行列の列ベクトルに固有値1に対する固有ベクトルが表れている。

《応用例2》
2, 1,1
0,1,0
0, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(2-λ)(1-λ)2=0,
その結果、λ=2という固有値2と、λ=1という、2重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、以下の図の3つの行列の積が0行列になる。

そうではあるが、この事例の場合は、以下の図の2つの行列の積だけで既に0行列になっていた。


そのため、以下の図のように、それぞれの行列(元の行列から、固有値倍した単位行列を引き算した行列)の列ベクトルに相手側の側の行列に係る固有値の固有ベクトルが表れている。

すなわち、固有値1に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の2倍を引き算した行列の列ベクトルに)2つ現れ、固有値2に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の1倍を引き算した行列の列ベクトルに)1つ表れている。

(蛇足)
試験問題として、ケイリー・ハミルトンの定理を用いて行列のべき乗の計算を簡略化する問題が頻繁に出題されています。
 行列のべき乗があらわれる場合は、電流Iと電圧Vを変換する電子回路を重ねた場合に、その変換をあらわす行列が、個々の変換のべき乗になります。




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追加講:三角形の面積と行列式
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2012年1月24日火曜日

行列の掛け算のやさしい覚え方



《目次》行列演算からベクトル解析まで

先ず、行列とは、ベクトルを変換する関数を表であらわし、その表の要素を一定の規則でベクトルの要素に掛け算して、変換結果のベクトルを計算するために作られた表のことです。
 

行列によるベクトルの変換は、以下のようにあらわせます。
 
行列の要素を添え字を使ってあらわし、その添え字を変数にして、
 mk=B’
と書きます。
こういうふうに書いて、添え字の変数kの名が、行列Aの要素の添え字とベクトルBの要素の添え字で同じ名にそろえた場合は、
その添え字kのあらゆる場合(この場合は1と2だけ)の和をあらわすものとします。
この変換は、以下のように行列を列ベクトルに分解してもあらわせます。
 mk=Am1+Am2
の通りです。

行列の掛け算(行列の積)のルールは、以下のように書くと覚えやすい。

行列の要素を添え字を使ってあらわし、その添え字を変数にして、
mkkp=Cmp
と書く。

こういうふうに書いて、添え字の変数kの名が、行列Aの要素の添え字と行列Bの要素の添え字で同じ名にそろえた場合は、
その添え字kのあらゆる場合(この場合は1と2だけ)の和をあらわすものとする。

計算結果の行列Cの要素の計算の具体的内容は上記の通りである。

このように行列の掛け算をあらわすと、行列の掛け算の規則がおぼえやすくなる。
このあらわし方は、アインシュタインが考えた方法です。
この式のあらわし方をアインシュタインの縮約記法と呼びます。
 

以下の行列の説明では、特に断らない限り、行列の掛け算をアインシュタインの縮約記法で記述します。

(別の覚え方)
上記の覚え方では行列の掛け算の定義を覚えにくいという人には、以下のような覚え方もあります。
行列は、ベクトルを変換した結果のベクトルを並べたものです。
そのため、以下のように変換されます。
 結局、
となる。

上のように書くと、きれいな式で一見覚え易いように見えます。
しかし、行列の要素に添え字を付ける方が、これより明確だと思います。
(1)先ずは、行列の要素をAmkとあらわせば、それが行列Aに属すかが明確に分かります。
(2)また、その要素の行列内の位置(m行目、k列目)も明確になるので
わかりやすい表現だと思います。

そのため、上の式の要素に添え字を付けて以下のようにあらわします。
行列Bに行列Aを掛け算した結果の行列の左側の縦の列ベクトルは、 行列Bの左側の縦の列ベクトルを行列Aで変換した結果のベクトルであり、
掛け算した結果の行列の右側の縦の列ベクトルは、 行列Bの右側の縦の列ベクトルを行列Aで変換した結果のベクトルです。

この式は、以下の式と同じです。
mp=Amkkp=Am11p+Am22p
この式は、更に以下の図であらわせます。
この図を見ると、元の行列の各要素が積の結果にどう影響するかが一目瞭然に分かると思います。
この計算のイメージは以下のようになります。
ちなみに、この行列の積のルールで計算した行列の積の順序を変えた場合、
mkkpとBmkkp の行列は必ずしも同じにはなりません。
後で学ぶことですが、この2つの積は、行列の固有値は同じです。

行列の掛け算の例を以下に示します。




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