大学への数学Ⅲ&Cの勉強
行列と連立1次方程式
ケイリー・ハミルトンの定理は高校の数ⅢCで教えられています。
しかし、高校生には、この定理の数学的意味が教えられていないので、
なぜこの定理を学ばなければならないのかが高校生にわからない状態です。
行列の教育の評判が悪いためか、2012年の高校入学生からは、新教育過程で、行列自体を高校生に教えないことになりました。
このページでは、このケイリー・ハミルトンの定理の数学的意味、すなわち、この定理を学ぶ価値がわかるように、以下で、この定理の意味を解説します。
以下の話は大学で教わる知識です。
そのため、以下の知識は高校の試験問題での解答には使わないで下さい。
(大学の入試問題の解答には使っても良いかもしれない)
高校の試験問題では、高校で習う範囲の知識を使って解答するようにして下さい。
先ず、ケイリー・ハミルトンの定理は、高校の数学ⅢCで教えられているような2行2列の行列に限定された定理では無く、n行n列の正方行列に関する広い範囲の定理です。
すなわち、ケイリー・ハミルトンの定理は、n行n列の行列Aptに関して、
Δx=det[Apt-xEpt]=0
の方程式のxを行列Aptに置き換え、係数項を単位行列Eptの係数倍に置き換えた式が成り立つという定理です。
【行列式】
ケイリー・ハミルトンの定理の意味を理解するには、先ず、「行列式」の意味を知る必要があります。
【行列の固有値と固有ベクトル】
行列Amp毎に、その行列の変換により方向が変わらないベクトル(固有ベクトル)Bpが必ず1つ以上あり、固有ベクトルの方向毎に特定の倍率α(固有値)でベクトルが拡大されます。
つまり、ある方向のベクトルBpに関して、
AmpBp=αBm (式1)
という関係があります。
この固有ベクトルの方向は固有値毎に定まります。
固有値が異なる固有ベクトルは異なる方向を向きます。
この固有値αを計算するには、以下のようにします。
AmpBp-αBm=0m
(Amp-α・Emp)Bp=0m (式2)
Empは単位行列です。
この行列 (Amp-α・Emp)の行列式が0になります。
また、その行列式が0ならば、以下で詳しく説明するように、式2を満たすベクトルBpが 存在します。
そのため、
Amp-x・Emp
という行列の行列式を0にする方程式を求めます。その行列式の方程式の変数xの値(固有値)を求めることで行列Ampの固有値が計算できます。
Δx=det[Amp-xEmp]=0 (式3)
固有値αが求められたら、行列
Amp-α・Emp
の余因子行列を計算します。
以下で詳しく説明するように、その余因子行列の縦の列ベクトルが固有ベクトルに比例します。(ただし、(3行3列以上の行列で起こり得ることであるが)余因子行列が0行列になってしまう場合は、その他の方法で固有ベクトルを求める必要があります)。
(注意)
一見固有ベクトルを持たないように見える回転変換の行列も、複素数の固有値を持ち、複素数の成分が含まれる固有ベクトルを持ちます。
【固有ベクトルの有用性について書いたページはここをクリック】
【行列の固有値と固有ベクトルの計算の詳細】
行列Ampに関する固有値は、以下の行列の行列式を計算することで計算します。
Amp-x・Emp
この行列が2行2列の行列の場合は、その行列式Δxを0にする方程式(式3)は、以下のようにxの2次方程式になります。
Δx=det[Amp-xEmp]=0 (式3’)
0=εmp(Am1-xEm1)(Ap2-xEp2)
=(A11-x)(A22-x)-A21A12 ,
x2-(A11+A22)x+A11A22-A21A12=0 (式4)
このxの2次方程式の解は2つあります。
その2つの解をαとβとします。
(このαとβが固有値です。)
根と係数の関係から、
α+β=A11+A22 (式5)
α・β=A11A22-A21A12 (式6)
が成り立ちます。
(式6は、行列Aの固有値の積が行列Aの行列式に等しいことを表している)
この固有値λ(=α又はβ)を使った行列 (Amp-λ・Emp)の行列式Δは0です。
この行列 (Amp-λ・Emp)の余因子行列をBpsとします。
すると、
(Amp-λ・Emp)Bps=Δ・Ems=0・Ems=0ms (式7)
が成り立ちます。
行列Bpsの1つの縦の列ベクトルBp1については、
(Amp-λ・Emp)Bp1=0m1 (式8)
が成り立ちます。
この式8を変形すると、
AmpBp1-λ・EmpBp1=0m1
AmpBp1-λ・Bm1=0m1
AmpBp1=λ・Bm1
すなわち、列ベクトルBp1は固有ベクトルです。
よって、行列 (Amp-λ・Emp)の余因子行列Bpsの列ベクトルBp1は固有ベクトルです。
同様にして、 余因子行列Bpsの列ベクトルBp2も同じ固有ベクトルです。これは、Bp1とBp2が比例することを意味します。
この固有ベクトルは、個々の固有値毎に、その固有値に関する余因子行列を計算し、その余因子行列の縦ベクトルに比例する固有ベクトルを求めます。(ただし、余因子行列Bが0行列になる場合は、その他の方法で固有ベクトルを求めて使います)
そうして求めた個々の固有値毎の固有ベクトルは、
固有値が異なれば異なる方向を向きます。
固有値が全て異なる場合の、固有値毎の固有ベクトルを列ベクトルにして並べて作った行列Pの行列式は0ではありません。
【2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理】
(2つのxの値が異なる場合、すなわちα≠βの場合)
固有値毎に、
(1)
1つ目の固有値αに対応した固有ベクトルBpに対して、
(ベクトルBpは、(B1, B2)です。)
行列Ampによる変換結果は、
AmpBp=αBm
になります。
(2)
別の固有値βに対応した固有ベクトルCpに対して、
行列Ampによる変換結果は、
AmpCp=βCm
になります。
そのため、
行列(Amp-α・Emp)に対して
(Amp-α・Emp)Bp=0m
(Amp-α・Emp)Cp=(β-α)Cm
行列(Amp-β・Emp)に対して
(Amp-β・Emp)Cp=0m
(Amp-β・Emp)Bp=(α-β)Bm
一方、任意のベクトルDpは、
Dp=b・Bp+c・Cp
とあらわせる。
すると、任意のベクトルDpに対して、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)Dp
=(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)(b・Bp+c・Cp)
=(Anm-β・Enm)c・(β-α)Cm
=0n
この行列(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)は、任意のベクトルDpを0ベクトルに変換するので、0行列です。すなわち、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
(この形の式は、式(4)(5)(6)の変数xを行列Aに置き換えたケイリー・ハミルトンの定理の式を因数分解した式です。)
(重根の場合、すなわち、α=βとなる場合)
固有ベクトルBpに対して、
(Amp-α・Emp)Bp=0m (式9)
になりますが、
行列(Amp-α・Emp)は、
任意のベクトルFpを、以下のように、ベクトルBpの定数倍に変換します。
(証明開始)
行列(Amp-α・Emp)によるベクトルFpの変換結果のベクトルは、以下の式10であらわせる。すなわち、
(1)ベクトルFmがベクトルBmと線形独立な場合は、ベクトルFmとベクトルBmを用いて、
(Amp-α・Emp)Fp=gFm+hBm (式10)
とあらわせる。
(2)また、ベクトルFmがベクトルBmと線形独立で無くベクトルBmの定数倍の場合は、g=0、h=0とあらわせて、やはり式10であらわせる。
(仮定)ここで、g≠0と仮定すると、
式9により、
(Amp-α・Emp)(h/g)Bp=0m (式11)
式10と式11を足し合わせると、
(Amp-α・Emp)(Fp+(h/g)Bp)=gFm+hBm ,
Amp(Fp+(h/g)Bp)=(α+g)・(Fm+(h/g)Bm)
この式は、ベクトル(Fp+(h/g)Bp)が行列Ampにより(α+g)倍に変換されることをあらわしているので、
α+gが固有値であることになる。
一方、固有値は重根であって、αのみであるので、
g=0
になる。
しかし、g≠0と仮定していたので、これと矛盾する。
よって、g≠0とする仮定は不適。
∴ g=0
任意のベクトルFに関する式10は、
(Amp-α・Emp)Fp=hBm
(証明おわり)
このため、任意のベクトルFpについて、
(Anm-α・Enm)(Amp-α・Emp)Fp=(Anm-α・Enm)(h・Bm)
=0n
すなわち、
(Anm-α・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
よって、α≠βの場合も、α=βの場合も、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
AnmAmp-(α+β)Anp+α・βEnp=0np
根αとβと係数の関係をあらわす式5と式6を代入すると、
AnmAmp-(A11+A22)Anp+(A11A22-A21A12)Enp=0np
これが、2行2列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。
【3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理】
2行2列の行列の場合と同様に、3行3列の行列についても、
変数xに関して以下の行列を作ります。
Amp-x・Emp
そして、この行列の行列式を0にする変数xの値を求めます。
εmpr(Am1-xEm1)(Ap2-xEp2)(Ar3-xEr3)=0 (式12)
この方程式は3次方程式になります。その3つの解をαとβとγとすると、以下の式であらわせます。
(α-x)(β-x)(γ-x)=0 (式13)
《なお、この式から、
αβγ=(Aの行列式),
という関係があることがわかります。
更に、
α+β+γ=(行列Aの対角成分の和),
という関係があることもわかります。》
一方、行列Ampに関しては、2行2列の行列と同様に、以下の関係が成り立ちます。
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
この式13を展開した式を求めるには、行列式12を展開した3次方程式を求めて、
その3次方程式の、
x3をAnmAmsAspに置き換え、
x2をAnmAmpに置き換え、
xをAnpに置き換え、
係数項は単位行列Enpの係数倍に置き換える
ことで求めることができます。
これが3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。
《ケイリー・ハミルトンの定理の応用》
3行3列の行列のケイリー・ハミルトンの定理:
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
が成り立つので、
(Anm-γ・Enm)の行列が、
2つの行列の積(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)で得た行列の列ベクトルBを0ベクトルに変換する。
そのため、その2つの行列を掛け合わせて得た行列の列ベクトルBは、固有値γの固有ベクトルである。
そのため、この行列(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)の計算によっても、固有値γの固有ベクトルが計算できる。(これによって固有ベクトルを求める方法は、固有ベクトル用の行列の余因子行列が0行列になって固有ベクトルが求められないときに有用な方法である)
《応用例1》
1, 1,1
-1,1,0
1, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(1-λ)3=0,
その結果、λ=1という、3重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、
0, 1,1
-1,0,0
1, 0,0
の行列を3回掛け合わせると0行列になるケイリー・ハミルトンの定理の式が得られる。
そして具体的に計算するとその通りになり、3回掛け合わせて初めて0行列になる。
また、この行列を2回掛け合わせて得た行列を下図に示す。
その積の結果の行列の列ベクトルに固有値1に対する固有ベクトルが表れている。
《応用例2》
2, 1,1
0,1,0
0, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(2-λ)(1-λ)2=0,
その結果、λ=2という固有値2と、λ=1という、2重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、以下の図の3つの行列の積が0行列になる。
そうではあるが、この事例の場合は、以下の図の2つの行列の積だけで既に0行列になっていた。
そのため、以下の図のように、それぞれの行列(元の行列から、固有値倍した単位行列を引き算した行列)の列ベクトルに相手側の側の行列に係る固有値の固有ベクトルが表れている。
すなわち、固有値1に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の2倍を引き算した行列の列ベクトルに)2つ現れ、固有値2に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の1倍を引き算した行列の列ベクトルに)1つ表れている。
(蛇足)
試験問題として、ケイリー・ハミルトンの定理を用いて行列のべき乗の計算を簡略化する問題が頻繁に出題されています。
行列のべき乗があらわれる場合は、電流Iと電圧Vを変換する電子回路を重ねた場合に、その変換をあらわす行列が、個々の変換のべき乗になります。
リンク:
追加講:三角形の面積と行列式
高校数学の目次
=0n
すなわち、
(Anm-α・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
よって、α≠βの場合も、α=βの場合も、
(Anm-β・Enm)(Amp-α・Emp)=0np
AnmAmp-(α+β)Anp+α・βEnp=0np
根αとβと係数の関係をあらわす式5と式6を代入すると、
AnmAmp-(A11+A22)Anp+(A11A22-A21A12)Enp=0np
【3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理】
2行2列の行列の場合と同様に、3行3列の行列についても、
変数xに関して以下の行列を作ります。
Amp-x・Emp
そして、この行列の行列式を0にする変数xの値を求めます。
εmpr(Am1-xEm1)(Ap2-xEp2)(Ar3-xEr3)=0 (式12)
この方程式は3次方程式になります。その3つの解をαとβとγとすると、以下の式であらわせます。
(α-x)(β-x)(γ-x)=0 (式13)
《なお、この式から、
αβγ=(Aの行列式),
という関係があることがわかります。
更に、
α+β+γ=(行列Aの対角成分の和),
という関係があることもわかります。》
一方、行列Ampに関しては、2行2列の行列と同様に、以下の関係が成り立ちます。
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
この式13を展開した式を求めるには、行列式12を展開した3次方程式を求めて、
その3次方程式の、
x3をAnmAmsAspに置き換え、
x2をAnmAmpに置き換え、
xをAnpに置き換え、
係数項は単位行列Enpの係数倍に置き換える
ことで求めることができます。
これが3行3列の行列に関するケイリー・ハミルトンの定理です。
《ケイリー・ハミルトンの定理の応用》
3行3列の行列のケイリー・ハミルトンの定理:
(Anm-γ・Enm)(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)=0np
が成り立つので、
(Anm-γ・Enm)の行列が、
2つの行列の積(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)で得た行列の列ベクトルBを0ベクトルに変換する。
そのため、その2つの行列を掛け合わせて得た行列の列ベクトルBは、固有値γの固有ベクトルである。
そのため、この行列(Ams-β・Ems)(Asp-α・Esp)の計算によっても、固有値γの固有ベクトルが計算できる。(これによって固有ベクトルを求める方法は、固有ベクトル用の行列の余因子行列が0行列になって固有ベクトルが求められないときに有用な方法である)
《応用例1》
1, 1,1
-1,1,0
1, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(1-λ)3=0,
その結果、λ=1という、3重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、
0, 1,1
-1,0,0
1, 0,0
の行列を3回掛け合わせると0行列になるケイリー・ハミルトンの定理の式が得られる。
そして具体的に計算するとその通りになり、3回掛け合わせて初めて0行列になる。
また、この行列を2回掛け合わせて得た行列を下図に示す。
その積の結果の行列の列ベクトルに固有値1に対する固有ベクトルが表れている。
《応用例2》
2, 1,1
0,1,0
0, 0,1
の行列の固有値は、以下の式で求められる。
(2-λ)(1-λ)2=0,
その結果、λ=2という固有値2と、λ=1という、2重の固有値1が求められる。
そのため、ケイリー・ハミルトンの定理によって、以下の図の3つの行列の積が0行列になる。
そうではあるが、この事例の場合は、以下の図の2つの行列の積だけで既に0行列になっていた。
そのため、以下の図のように、それぞれの行列(元の行列から、固有値倍した単位行列を引き算した行列)の列ベクトルに相手側の側の行列に係る固有値の固有ベクトルが表れている。
すなわち、固有値1に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の2倍を引き算した行列の列ベクトルに)2つ現れ、固有値2に対する固有ベクトルが(元の行列から、単位行列の1倍を引き算した行列の列ベクトルに)1つ表れている。
(蛇足)
試験問題として、ケイリー・ハミルトンの定理を用いて行列のべき乗の計算を簡略化する問題が頻繁に出題されています。
行列のべき乗があらわれる場合は、電流Iと電圧Vを変換する電子回路を重ねた場合に、その変換をあらわす行列が、個々の変換のべき乗になります。
リンク:
追加講:三角形の面積と行列式
高校数学の目次
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