大学への数学Ⅲ&Cの勉強
行列と連立1次方程式
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▷解説
▷対称行列
▷固有ベクトルの数が少ない異常な行列
【解説】
固有値はどうであれ、固有ベクトルが同じ2つの行列を考えます。
特に、n行n列の行列ならn個の共通する固有ベクトル
Pt1
Pt2
・・・
Ptn
が存在する”正常な”行列AstとBstを考えます。
(固有ベクトルの数がn個より少ない"異常な"行列は、対角化ができないという異常さがあります。ここでは、そういう異常な行列は考えないことにする)
それらのベクトルを固有ベクトルとする行列Astは、その固有ベクトルを並べた行列Ptkを用いて以下の式で計算することで、対角化した行列Cukに変換できます。
P-1usAstPtk=Cuk ←AstPtkXk=PsuCukXk
P-1usBstPtk=Duk
対角化された行列CとDでは、以下の関係が成り立ちます。
CukDks=DukCks (1)
なぜなら、u=k=sの場合以外では、式1の項が0になるからです。そして、以下の式のように、u=k=sとなるk番目の対角成分がCkkDkkになり、その積の値は行列CとDの積の順番には関係しないからです。
式1により、対角行列の掛け算の順序が交換可能(可換)です。
この式1の左からPmuを掛け算して、右からはP-1stを掛け算します。
PmuCukDksP-1st=PmuDukCksP-1st
PmuCupP-1pwPwkDksP-1st=PmuDupP-1pwPwkCksP-1st
AmwBwt=BmwAwt
∴ 行列Amwと行列Bwtの掛け算の順序が交換可能(可換)です。
《行列が交換可能ならば固有ベクトルが等しいか?》
逆に、n行n列の行列に関して、n個の固有ベクトルの数を完備する”正常な”行列AstとBstの掛け算の順序が交換可能(可換)な場合に、もし、行列 の固有値が全て異なる場合には、行列Amwの固有ベクトルn個が、そっくりそのまま、行列Bstの固有ベクトルでもあります。
(行列Aの複数の固有値が等しい場合は、行列Aが行列Bと交換可能(可換)であっても、行列Aの固有ベクトルが行列Bの固有ベクトルになるとは限らない)
そのことを以下で証明します。
AmwBwt=BmwAwt (2)
この行列Amwの固有ベクトルn個を並べた行列をPmuとします。
この式2の左からP-1umを掛け算して、右からはPtsを掛け算します。
P-1umAmwBwtPts
=P-1umBmwAwtPts
P-1umAmpPpkP-1kwBwtPts
=P-1umBmpPpkP-1kwAwtPts
CukP-1kwBwtPts
=P-1umBmpPpkCks
ここで、Cukは対角行列であるから、
その対角された成分(固有値)を順番にαuとすると、
αuP-1uwBwtPts =P-1umBmpPpsαs
αuP-1umBmpPps =P-1umBmpPpsαs
(αu-αs)P-1umBmpPps=0us (3)
《ここで、行列Amwの全ての固有値αuが異なる場合は、》
式3の左辺の行列のu行s列のu≠sである成分を(αu-αs)で割り算した結果が式3の右辺の0行列の各成分の値0と等しくなります。
u≠sの場合、
P-1umBmpPps=0us
すなわち、P-1umBmpPpsは対角行列になります。
つまり、行列Bmpも、行列Amwの固有ベクトルの作る行列Ppsで対角化できます。
行列Bmpを対角化できる行列Ppsの各縦ベクトルは、行列Bmpの固有ベクトルです。
∴ (行列Amwの全ての固有値αuが異なる場合は)
行列AstとBstの掛け算の順序が交換可能(可換)な場合には、行列Amwの固有ベクトルn個が、そっくりそのまま、行列Bstの固有ベクトルになります。
よって、行列が単位行列の定数倍以外であって、行列の固有値が重解(重根)を持たないときは、
(1)行列AとBの固有ベクトル(の方向)が同じならば、行列の積AB=BAになり、
(2)また、行列の積AB=BAならば、 行列AとBの固有ベクトル(の方向)が同じになります。
《一方、行列Amwの固有値αuに同じ値の重複がある場合は、》
u≠sであっても、αu=αsである(行列Aの固有値に重複がある)場合は、
P-1umBmpPpsが0で無く、行列Bmpが行列Aの固有ベクトルで作った行列Ppsで対角化され無くても、行列の積AB=BAという交換関係がある。行列AにもBにも共有されている正しい固有ベクトルは、固有値の重複がある行列Aの固有ベクトルを解くことでは見分けにくくなっている。
《対称行列》
対称行列では、(固有値が異なる)固有ベクトルは互いに直交する。また、固有値が同じ固有ベクトルも、互いに直交する固有ベクトルに変換できる。そして、対称行列の固有ベクトルは、正規直交系を成す固有ベクトルを選ぶことができる。対称行列Aと対称行列Bが、共通する、(直交系を成す)固有ベクトルによって対角化されている場合は、行列の積AB=BAという交換関係がある。
(具体例)
(行列A)
1,1,0
1,0,1
0,1,1
の固有値を計算すると、1,-1,2であり、3つの異なる固有値を持つ。
その固有ベクトル(縦ベクトル)は、
がある。
これらの固有ベクトルは互いに直交している。
(行列B)
0,1,1
1,0,1
1,1,0
の固有値を計算すると、-1が2つ(重複)と、2とである。
その固有ベクトル(縦ベクトル)は、
があるが、固有値-1に係る2つの固有ベクトル
が直交していない。
ここで、行列AとBには、行列の積AB=BAという交換関係がある。
固有値の値が全て異なる行列Aの固有ベクトル
を使って行列Pを作ると、
P-1APが対角行列になり、
P-1BPも対角行列になる。
しかし、固有値の値が重複している行列Bの固有ベクトル
を使って行列Pを作ると、
P-1BPは対角行列になるが、
P-1APは対角行列にならない。
ここで、行列Bの固有値-1に係る2つの固有ベクトルの、
を線形結合すると、
行列Aの2つの固有ベクトルの、
が作れる。その固有ベクトルは、互いに直交し、他の固有ベクトルとも直交する。
そのように整えて、行列Aの固有ベクトルと同じ固有ベクトルにした縦ベクトルで行列Pを作るならば、
P-1BPも、
P-1APも、対角行列になる。
そのように、行列Bの重複する固有値に係る固有ベクトルを、互いに直交させつつ、かつ、他の固有ベクトルとも直交するベクトルに整える。その固有ベクトルを行列Aの固有ベクトルと同じにすることで、その固有ベクトルで作る行列Pを使って、行列Aも行列Bも対角化させることができる。
(注意)
重複する固有値を持つ行列Bの固有ベクトルは、固有ベクトル同士が直交はするが、行列A用とは異なる方向の固有ベクトル系に整えることもできる。行列Bは、その異なる固有ベクトル系を共有する他の行列Cとも、行列の積BC=CBである交換関係がある。
なお、行列AとBが共有する固有ベクトルを大きさが1の単位ベクトルにした(正規直交系を成す)固有ベクトルで作った行列Pは以下の形になる。
《直交しない固有ベクトルを持つ行列》
非対称な行列A:
は、固有値1の固有ベクトル
を持つ。
また、固有値2の固有ベクトル
を持つ。
行列Aを対角化する行列Pは、その固有ベクトルを並べた行列であり、
である。その逆行列Pー1は、以下の行列
である。それらを使って行列Aが対角化でき、
Pー1APが、
という対角行列になる。
【対角行列】
対角行列の固有ベクトルは(1,0)と(0,1)で、この固有ベクトルをすべての対角行列が共有する。
そのため対角行列同士では行列の積が交換可能である。
(固有値に重複が無い)対角行列との行列の積が交換可能な行列は対角行列の一種である。
【回転行列】
また、回転行列の固有ベクトルは(i,1)と(i,-1)であって、この固有ベクトルはすべての回転行列が共有する。
そのため、回転行列同士では行列の積が交換可能。
回転行列との行列の積が交換可能な行列は回転行列である。
固有ベクトルを共有する行列は行列の積が交換可能であるという原理は、大学で量子力学を学ぶときなどに利用されます。
【単位行列E mwとその他の行列との積の交換関係】
n行n列の単位行列のn個の固有値は全て1であって等しい。
この単位行列は、全ての行列と行列の積が交換可能である。
単位行列の固有ベクトルは全ての方向のベクトルが固有ベクトルである。
そのため、単位行列は全ての行列と、固有ベクトルを共有することが可能である。
そのことは、以下の様に言うこともできる。
(単位行列Emwの全ての固有値αuが等しい場合)
単位行列Estと任意の行列Bstの掛け算の順序がいつでも交換可能(可換)である。その場合に、行列Bmwの固有ベクトルn個を、そっくりそのまま、単位行列Estの固有ベクトルにすることができる。しかし、単位行列Eの固有ベクトルのセットのうちには、行列Bを対角化できないものもあるのです。
固有ベクトルが一致する関係が成り立つことが本質的に重要です。
2行2列の行列の場合に、行列AstとBstの掛け算の順序が交換可能(可換)な場合に、
Bst=βAst+γEst
となることが試験問題に出されていますが、それは、2行2列の行列で、固有ベクトルが同じ行列がそういう式であらわされるからです。
2行2列の行列でこの関係が成り立つ理由は、
2行2列の行列に限っては、あらゆる対角行列Dstは、固有値の異なる対角行列Cstを使って、
Dst=βCst+γEst
とあらわすことができることに由来します。
しかし、3行3列以上の行列では、
計算順序が交換可能(可換)な行列同士では、共有する固有ベクトルを持つが、
Bst=βAst+γEstという関係は必ずしも成り立たない。その関係は、可換な行列同士に普遍的に成り立つ関係ではありません。
しかしながら、それにより、
「2行2列の行列に限っては、単位行列と足し合わせることで、計算順序が交換できる全ての行列を作ることができる」
という便利な関係があることがわかります。
【楕円をあらわす行列と固有ベクトルが同じ行列を作って楕円の固有ベクトル(軸ベクトル)を計算する】
この行列には、列ベクトル同士の内積が0になる、すなわち、列ベクトルが直交するという特別な性質があります。
そのため、この行列は以下のようにあらわすことができます。
この行列Sは、以下のように、ベクトルを、傾き角θの直線に関して対称なベクトルに変換する行列です。
つまり、傾き角度θの直線の方向のベクトル成分はそのままにして、それに直交する方向のベクトル成分には-1を掛け算する変換をする行列です。
傾き角度θの直線の方向のベクトルが第1の固有ベクトルであり、それに直交する方向のベクトルが第2の固有ベクトルです。
それらの固有ベクトルは、以下のように計算することができます。
こうして求めた固有ベクトルは、元の、楕円を与える行列Fの固有ベクトルでもあります。
こうして、楕円の行列Fの固有ベクトル、すなわち、楕円の軸方向のベクトルが求められた。
《固有ベクトルの数が行列の列の数のn個より少ない"異常な"行列Aの場合》
その行列Aは対角化できない(三角化はできる)という異常さがあります。しかしながら、その異常な行列Aも、固有ベクトルを共有する行列B(同じく異常な行列)との間に、(AB=BA)という交換可能(可換)の関係を持ちます。(相手が正常な行列の場合は、単位行列Eとは可換)
(例)固有値が1の重根を持つ行列A:
は、固有ベクトル
を1つのみ持つ。
その固有ベクトルと同じ固有ベクトルを持つ行列B:
は、行列Aとの積が交換可能(可換)な関係があり、以下の式が成り立つ。
なお、行列Bは行列Aと同じ固有ベクトルを持つ上に、その固有値も、行列Aと同じ1の重根である。ただし、行列Bの全ての成分を2倍にすれば、固有値も2倍になる。その場合の行列Bも行列Aと可換である。
リンク:
追加講:三角形の面積と行列式
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